遠藤国賠ニュース

第43号(控訴審第23号) 2000年1月16日(日)

 

 
控訴審弁論傍聴記

 昨年の12月8日、午前10時30分から第13回目の口頭弁論が開かれました。今回弁論初体験となった、ホームページ管理人一号ガヴァガイが、詳しい解説はtommiさんに譲ることにして、今回の弁論の概略を御報告します。

 余談ですが、偶然その日は午前10時から、覚醒剤の所持で起訴された歌手、槇原敬之に対する判決の言渡しがあり、一緒に来ていた管理人二号カブに先導されて、ファンでごった返す法廷前を取りあえず見物しました。そして、半泣きのファンから、求刑通りの判決が出たことを確認してから、遠藤国賠の高裁809号法廷へ。

 傍聴券が出された槇原の裁判とは違い、今回のこちらの傍聴者は15、6名(いつもより少ないそうです)。当会代表の今井さんはお仕事の都合で、弁論後のミーティングのみ出席でしたが、その代わりに、奥さんさんと2才になる娘さんが傍聴に来られました。

 弁論では先ず、阿部弁護士が、以前に国側代理人の提出した書面の内容について追求しました。それは、前回の弁論でも問題となった伝聞証拠に関するもので、「他人が作成した検問表を丸暗記して証言したようなもの(詳しくは、同ニュース42号)」も伝聞にはあたらず、従って違法ではないという解釈がある、と書いている点について、具体的に誰が何処でそのようなことを言っているのか、と問いただし、その主張を裏付ける書面を提出するように求めました。それに対して国側代理人は一言、「検討します」という返答。「そのような書面を出していただけるんですか」と念をおす阿部弁護士に対して、さらに「ですから、今後検討します」。

 次に、引続き阿部弁護士が、今回の原告の主張である、刑事一審裁判における「アリバイ」証拠の問題点を、約一時間かけて論じました。詳細は後に譲るとして、原告の主張は簡単に言えば以下のようなものでした。

 事件の直前、会津方面へ向かっていた遠藤さんの車両は、轢逃げ現場を何事もなく通過し、その先で新潟方面へ向かっていた対向車である新潟交通のバスと擦違った。そのバスはその後に、まだ事故に遭う前の被害者が路上で寝込んでいるのを目撃し、それを避けて通過した。この点については、バスの運転手の証言がある。この事実からだけ見ても、轢逃げ事件の瞬間の遠藤さんのアリバイは成立しており、遠藤さんが無実であることは、誰の目にも明らかであった。それにもかかわらず、刑事一審の裁判官は、検察官でさえそのような主張をしなかったのに、遠藤さんの車両とバスとの擦違い地点を、轢逃げ現場より手前、新潟方面寄りにずらして認定するなどして、アリバイを否定し、遠藤さんを有罪とした。このような不合理な裁判は違法である。

 阿部弁護士による陳述の後、国側代理人はそれに対する釈明を求められましたが、「後でまとめて反論します」と返答するのみ。この「後でまとめて反論します」というのは、これから先の原告の主張が、裁判を通して出尽くし、全て終わった後で、その全ての主張に対してまとめて反論する、ということらしいのですが、どう見ても国側代理人にはそもそもやる気がなく、何も言うつもりがないのが見え見え(しかも、恐らく最後に適当な書面を出して、釈明に代えるつもりなのでしょう)。

 その後、今度は吉永弁護士が、刑事一審裁判官の、アリバイ証拠に関する訴訟指揮の問題点を強調しました。つまり、遠藤さんの車とバスの擦違い地点に関しては、一審において検察側と弁護側の間に争いはなく、双方共に、遠藤さんの車は轢逃げ現場を通過した後で、新潟交通のバスと擦違ったのだと主張していました。しかし、一審裁判官は擦違い地点に関して独自の見解を示したわけですから、それには相当の理由がなければなりません。本来なら、裁判官が持った疑問に関して、検察側と弁護側の主張を徹底的に聞くために、両者に質問したり、主張を促すなどといった訴訟指揮をしなければならないはずです。ところが、結審にいたる過程の中で、一審裁判官はこの問題について全く触れないまま、判決において突然独自の見解を示し、認定したのであり、このような訴訟指揮にもとづく事実認定は違法であるというわけです。

 この吉永弁護士による陳述の後にも、国側代理人は釈明を求められましたが、またもや「後でまとめて反論します」。この態度に、吉永弁護士がキレました。塩崎裁判長に抗議する吉永弁護士。

吉永 「裁判長、ちゃんと答えるように言って下さい。」

 ところが驚いたことに、裁判長は国側を庇う姿勢を見せます。

裁判長 「私はそんなこと言いませんよ(言うつもりはありませんよ)。」

 さらにキレた吉永弁護士と「よた」裁判長との応酬が続きます。

吉永 「どうしてですか、ちゃんと答えるように言って下さいよ。」
裁判長 「私はそんなこと言いません。後でまとめてと言っているんだから、いいじゃないですか。」(やや、逆ギレ。)
吉永 「他の民事裁判では、ちゃんと釈明するように訴訟指揮をしているじゃないですか。どうしてここではしないんですか。」
裁判長 「そんなことしませんよ。」
吉永 「他の裁判ではしてますよ。ちゃんと公判が進むように訴訟指揮して下さいよ。」(「弁論」と言うべきところを、うっかり「公判」と間違える。「公判」は刑事裁判。)
裁判長 「公判なんかじゃありませんよ。ここは民事ですよ。そんなことしませんよ。」(相手の些細なミスに、ここぞとばかり突っ込みを入れる。)
吉永 「公判じゃなかった。弁論が進むようにやってくださいよ。」(やや照れながら。)
裁判長 「そんなこと知りません。そういうのは事案によります。」
吉永 「いいですか。こういうのは、迅速な裁判を求める国民の声に反するんじゃないですか。」
裁判長 「いやいや、重大事件なのでゆっくりやりましょうよ。」
吉永 「わかりました。それじゃ、当裁判所はそのような釈明は求めない、と記録して下さいよ。」
裁判長 「そんなことは記録しませんよ。意見としては聞いておきます。必要があれば書面で提出して下さい。」

 このやり取りの間中、国側擁護の姿勢をあまりにもあからさまに見せる、裁判長の理不尽な訴訟指揮に対して、傍聴席からは終始笑いと不規則発言(野次)が飛んでいました。また、当然のことながら、国側代理人は我関せずの態度で、一言も発言しませんでした。この後、次回弁論の日程を決める話し合いがあり、弁論は終了。

 個人的な印象で総括すると──

1. 刑事一審裁判における「アリバイ」証拠の問題点がよくわかった、

2. 普段は思慮深げに原告の陳述に耳を傾けているらしい塩崎裁判長の化けの皮が剥がれた、

3. 国側代理人は、「検討します」と「後でまとめて反論します」の二種類の発言しかしなかった、

──そんな弁論でした。

[ガヴァガイ]

 



控訴審弁論解説

●ちゃんと調べて起訴したの?

 いうまでもなくアリバイとは、犯罪発生のその時、その場所にいなかった者は犯人ではありえないという証明(不在証明)である。

 前回指摘した2点の「情況証拠」なるもの──

(1) 事故現場を通過した関係各車両の通過時刻と順序からして、加害車両は遠藤車両のほかには考えられない、

(2) 第一発見者(とされた)中川氏が事故発見直前にすれ違った車両が加害車両であることは間違いないところ、その車両は遠藤さんのものである、

 という事実を、真正面から否定する決定的な証拠(情況証拠)である。

 通常、このような証拠は法廷で、被告人や弁護人が持ち出してくることによって初めて明らかになる。当然ながら、有罪判決を請求する検察官がこのような証拠を出すはずがないし、そもそも起訴する以上は捜査段階で徹底的に叩いて潰しておく。

 ところが本件ではこれが、起訴後公判開始前に検察側が開示した捜査書類の中に、すでに(いまだに、というべきか)存在していた。非常に稀有でありまた滑稽な事態というほかない。

 刑事訴訟法では、検察官は公判で証拠調べ請求する予定の証拠を、第1回公判前に弁護側に見せなければならないことになっている。そこで阿部弁護士は新潟地検へそれらの証拠書類を見に行って、そこでこのアリバイを発見したわけである。つまり検察官ははじめから、“アリバイ入り”の証拠を裁判所に提出する予定でいたらしい。サッカーでいう自殺点のようなものである。

 ちなみに、阿部弁護士が地検でこれら証拠書類の謄写作業をしていたとき、たまたま顔見知りだった最初の立会検査官・村山創史氏が声をかけてきて「阿部さん、この事件おかしいんだ」とぽつり漏らしたそうである。検察官としての立場からか、それ以上多くは語らなかったそうだが。

 その捜査書類とはまず、事故後3日目および4日目に採られた遠藤さんの供述調書と、実況見分調書である。それらによると、

 遠藤さんのトラックは、国道49号線の事故現場から約130メートル会津若松市よりの「阿賀の川タクシー」営業所前で新潟交通の定期バスとすれ違った。バスとすれ違うためトラックを左に寄せたとき、遠藤さんの目には「阿賀の川タクシー」と表示された灯火式看板が飛び込んできた。現場での実況見分の際には、「阿賀の川タクシー」の灯火式看板を指して、「ここでバスとすれ違った」と指示説明をしている。

 そして、遠藤さんとすれ違ったバスの運転手が、事故後6日目に警察官に語った内容を記した調書にはこうある。

「事故現場地点にさしかかった際、男が反対車線(遠藤さん側の走行車線)センターラインよりに寝ているのを発見した。ちょうど対向するタクシーがあり、その運転手は窓から男を見ていた。バスとタクシーは男を挟むように徐行しながら通過した。センターライン付近に寝ていたので大丈夫と思って通過した。」

 これらを突き合わせると、

 遠藤さんのトラックは現場を通過した後、バスとすれ違った。その後バスが現場にさしかかると、道路上に被害者が寝ていた。まだ事故には遭っていなかった。

 ──ということになる。

 アリバイの成立は一目瞭然だ。遠藤さんのトラックには、Uターンして戻ってでも来ない限り、被害者を轢過する機会がなかったのである。

 ここがまさに、この事件が子供にでもわかる冤罪だという所以なのだ。

 この単純明快なアリバイに、検察官はまったく気づかないまま起訴してしまった。

●裁判所が創作した新事実

 そこで検察官は、審理の最終段階になってこんなことを言った。

「バスの運転手は、被害者は寝ているだけだったと言っているが、それは見まちがいだ。彼らが見た被害者は既に遠藤さんに轢かれており、死んでいたのだ。」

 こんな理屈はとうてい成り立たない。

 裁判所もさすがにこれは撥ね付けた。

「すでに轢かれていたのであれば、被害者の頭部からは大量の血液が流れ出しており(ことに事故当時現場の気温はおよそ5度と推定されており、流れ出した血液からは湯気がたっていたと思われる)、被害者のすぐ脇を徐行して、すぐそばから様子を見ながら通過したバスの運転手にこれがわからないわけがない。ましてそこにはタクシーもいた。2人のベテランドライバーがそろいもそろって事故の発生を見逃すことなど考えられない。

 したがって、彼らが見た被害者はまだ生きていた。」

 ここまではまことに申し分のない判断である。それならば遠藤さんは無罪だ。

 ところが裁判所は、遠藤さんを有罪にした。

「バスが遠藤車両とすれ違ったのはその後だ。つまり遠藤車両はバスより後に事故現場を通過し、被害者を轢いたのだ。

 すなわち、遠藤車両とバスとがすれ違った地点は、事故現場より新潟寄りである。」

 以下にも述べるように、遠藤さんがバスとすれ違ったのは「阿賀の川タクシーの看板付近」(事故現場より「会津若松寄り」)である、というのは厳然たる事実である。ところが裁判所はこれをすりかえて、「すれ違った地点はもっと新潟寄りである」という新たな事実を創作した。もはやこうする以外に、遠藤さんを有罪にする途はなかったのである。またそうである以上、それまでの訴訟指揮からしてこのような「すりかえ」は充分に予測できたことではあった。

捜査資料からも明らかなすれ違い地点
捜査資料からも明らかなすれ違い地点

一審裁判所が認定したすれ違い地点
一審裁判所が認定したすれ違い地点

●遠藤供述はそんなに信用できないのか

 遠藤さんは「バスとすれ違ったのは『阿賀の川タクシー』の看板付近だ」と言っている。

 一審裁判所は、それは信用できないと言う。

 遠藤さんのこの供述は、事故後3日目の調書にも明確に述べられているとおり、当初から一貫している。これを覆す証拠もない。

 そしてこれとバスの運転手の供述を突き合わせるとアリバイは成立する。そのバスの運転手の供述が採られたのは遠藤供述の3日後である。遠藤さんの方でつじつまを合わせることは不可能である。

 かように高度の信用性を有する遠藤供述が、何故そんなに信用できないのか。

 ──もし遠藤さんの言うとおりバスとすれ違ったのが「阿賀の川タクシー」の看板付近で、かつ道路上の被害者を見たこともないとすると、遠藤さんが現場を通過した後に、被害者が道路上に出てきて倒れたということになる。その被害者を、対向してきたバスの運転手が目撃した。計算上、遠藤さんがそこを通過してから23秒ないし31秒後である。一方、被害者はふらふらと道路上に進入するところを目撃され、その地点から倒れていた地点までは直線距離にして20メートル以上ある。

 そうすると被害者は23秒ないし31秒の間に、20メートル以上の距離を歩き、転び、倒れたことになる。

 しかし被害者は泥酔状態であった。その状態で、23秒ないし31秒の間に、20メートル以上の距離を歩いて転んで倒れるなど経験則上とうてい考えられない。したがって遠藤さんの供述は信用できない──

ということである。

 こんなものはまやかし以外のなにものでもない。

 なにゆえに、泥酔状態では23秒ないし31秒の間に20メートル以上の距離を歩けないと、あまつさえこれを経験則とまで言い切れるのか。

 平均的な歩行速度は「30秒で40メートル」である。泥酔状態ではこれの半分の速度でも歩行できないことになる。こんな極端な経験則があるというのであろうか。私(阿部弁護士)など酔うほど速くなるのだが(帰りを急いで)、私は普通ではないということだろうか。

 また、上記まやかし論理は、被害者が目撃されてから倒れるまでずっと、その20メートル以上という一直線上をそのままの状態で歩き事故現場に至った(かつ目撃されたのは遠藤車両通過後)、という前提の上にのみ成り立つ。しかしそんな証拠などなにひとつない。裁判所の独断である。つまり、たとえば目撃されてから、危険を感じてかいったん道路外に戻り(その間に遠藤車両が現場を通過し)、現場まで20メートルよりも近距離になった場所からまた道路上に出て倒れた、という可能性もあるのだ。

 さらに裁判所は、控訴人がバスとのすれ違いの際に看板を見たとしても、それが「阿賀の川タクシー」の看板であったかどうか疑問の余地もあると言う。

 たしかに昼間に撮った写真を見ると、似たような大きさ、形をした看板がたくさんある。しかしこの看板は、「灯火式」だったのである。夜でもはっきり見えるのである。そして事故が起きたのは夜。当時、その街には他に見間違えるような「灯火式」看板はなかった。

 こういった点を、裁判所はまた無視している。

 なお、このすれ違い地点が遠藤さんの印象に強く残ったのにはもうひとつ訳がある。

 それは津川町の象徴ともいうべき、非常にタイトなクランクである。このクランクをバスが抜けて来るのを見た遠藤さんは、大型車同士ではここをすれ違えないと判断し、クランクの手前で車を左脇に寄せて、バスの通過を待った。そこにあったのが件の看板、というわけである。

●あまりにもアンフェアーな不意打ち

 いうまでもなくアリバイ問題は裁判の帰趨を決する極めて重要な争点である。

 遠藤さんがバスとすれ違ったのは「阿賀の川タクシー」看板付近であるという事実は、このアリバイを完全に成立させる。

 これほどまでに重大な問題に、裁判所はどう対処したか。

 一審判決を書いた裁判所は、1981年4月に構成されてから翌年の結審まで終始一貫、沈黙を守り通した。まったく何もしなかったのである。

 そして判決でいきなり、このすれ違い地点はそこではない、もっと新潟寄りであると認定した。

 まさに不意打ちである。

 遠藤車両とバスとが擦れ違ったのは、「阿賀の川タクシー」の看板付近である──

 この事実に、検察官と弁護人との間で争いはなかった。まったく争点になっていなかった。

 だからといって裁判所が別の事実を認定してはいけないというわけでは、もとよりない。

 当事者の言っていることに疑問を持ち、別の事実が真実だと思うのなら、それを事実として認定したっていっこうに構わない。

 ただし、そうしようとするなら、まずよほど強固な証拠が必要である。

 そしてなにより、その問題を争点として法廷の場に浮かび上がらせるために、検察官や被告人に質問したり、主張・立証を促したりして、両者の言い分を充分に聞かなければならないのだ。裁判所は「公正な」判断者なのだから。

 これは裁判の基本中の基本であり、訴訟の真髄である。

 これをしない手続きは違法であるというのが最高裁判例でもある。

 こんなことを知らない裁判官はいない。

 この「最高裁判例」が、後掲の庭山弁護士のコメントで紹介されている「昭和58年<1983年>の有名な」判例である。

 この裁判では、1970年に起きた「よど号ハイジャック事件」の謀議に参加したとされた被告人のひとりが、アリバイを主張して争っていた。

 審理の結果、裁判所は「○月12日」の謀議への参加を認定し、被告人を有罪とした。しかしその裁判ではずっと、被告人は「13日」のアリバイしか主張していなかったし、検察官も「12日」の謀議については何も言っていなかった。

 このように、裁判の間一貫して両者の念頭にあったのは「13日」だった。それを裁判所が疑問に思って「12日」を認定しようとするのなら、この「12日」を「争点として顕在化させた上で十分な審理を遂げる必要がある」、それをしないのは違法である──と最高裁は言った。

 なお、その違法の根拠として「刑事訴訟法317条 事実の認定は、証拠による」という、なんともそっけない条文が挙げられている。これはなにも、古式ゆかしき(?)「神のお告げ」とか、テレビドラマよろしく「桜吹雪が見えねぇか」の一喝だけで裁判してはいけないよ、などというあまりにもあたりまえのことをわざわざ言っているわけではない。(だいたい今の世の中、こんなことをされたらたまったものではない。もっとも、遠藤さんの刑事一、二審はこれと似たようなものだったかもしれないが・・・)

 刑事訴訟法は証拠調べについてもきっちりと手続きを定めている。たとえば証人尋問は検察官と被告弁護側がかわりばんこにやれとか、証拠物は法廷のみんなにちゃんと見せろ、など。

 そこで、「証拠による」ということはすなわち、「証拠はこういう、きっちりした手続きにのっとって調べないといけない」、ということをも意味するのだ(と解釈されている)。そして「当事者双方に証拠の証明力を争う機会を与え」るべし、という308条も、そのようなきっちりした証拠調べ手続きの一環として定められている。

 つまり「当事者双方に証拠の証明力を争う機会を与え」なかった刑事一審は、きっちりした証拠調べ手続きをしていない。だから「きっちりした証拠調べ手続きをせよ」という317条に(も)反する、ということである。

 しかるに裁判所は、「阿賀の川タクシー看板付近でバスとすれ違った」という遠藤供述がそれほどまで信用できないというのに、たとえば当の遠藤さんに「『阿賀の川タクシー』の看板を見たというが本当か、別の看板と見まちがえてないか」と、あるいは検察官に「遠藤車とバスが擦れ違ったのは、どうもそこではないような気がするのだがどうか」などといったような質問ひとつしなかった。

 きわめて不自然というほかない。

 阿部弁護士の弁論終了後に吉永弁護士が釈明を求め、ガヴァガイ報告に言う「裁判長の化けの皮」を剥がした争点が、まさにここである。

 吉永弁護士は、なぜ一審裁判所がこのような措置をとらなかったのか、国側に「今」答えさせるよう、繰り返し裁判長に求めた。裁判は議論の場であると、生じた疑問点にはその都度答えるのが「迅速な裁判」に資する所以であると、相手に反論の余地はないであろうほどの説得を行なった。

 しかしこれに対する裁判長の対応は、ガヴァガイ報告の通りである。

 検問車両関係(冒頭に示した「情況証拠」なるもの)については、結審の日程を覆し検察官を促してまで補充立証させるなどという、非常に積極的な訴訟指揮をしていたというのに、このアリバイ問題についてはひとことの質問すらしない。

 それはなぜか。

 そんなことをしたら検察官も遠藤さんも、バスとの擦れ違い地点が「阿賀の川タクシー」の看板付近だという事実をより強固に根拠づけてくるのは必然である。当然ながらそれは遠藤さんのアリバイをより強固にする。すなわち遠藤さんは無罪。──裁判所は、これをおそれていたというほかない。

 とうてい信じられることではないが、そう考えるほかに、合理的説明がまったくつかないのだ。

●助けてやった東京地裁

 刑事一審裁判所が、「バスとすれ違ったのは阿賀の川タクシー看板付近だ」という遠藤供述を信用できなかったのも、あながち解らないではない。

 これが、国賠一審の東京地裁が刑事一審を救済した論理である。

 しかし先にも述べたとおり、遠藤さんが「阿賀の川タクシー」の看板を見誤ったということは考えられない。なぜならそれは「灯火式」であり、遠藤さんがそれを見たのは夜であり、そして付近には他に「灯火式」看板はなかったのだから。この点は最高裁の無罪判決も指摘するとおりである。

 なのに東京地裁は刑事一審と同様、昼間に行なわれた実況見分の写真を前提にして、同じような大きさ・形状の看板がたくさんあるから「遠藤さんが見間違えたかもしれない、だから遠藤供述は信用できない」と思っても仕方ないなどと言っている。

 この一点だけ見ても完全な論理破綻である。

 彼らはまじめに審理に取り組んでいたのだろうか。

●それでも、違法でないのか

 遠藤さんのアリバイは完全だった。だから弁護人は早くからこれを主張し、遠藤さんを一刻も早く被告人の立場から解放するよう、再三求めていた。

 裁判所はどうしたか。

 裁判所は、こんなにも明白なアリバイにも気づかず起訴した検察官の肩を持ち、審理を82年まで引っ張ったうえ、新たな事実をでっち上げるという暴挙に出てまで有罪判決を書いた。これまで述べてきたような、実に姑息な訴訟指揮を行ない、実に姑息な屁理屈を弄して、アリバイ崩しに懸命になった。

 これが遠藤さんを13年の永きにわたる裁判生活に陥れたのである。それはまさに裁判に費やされた13年間であった。

 せめて、証拠が出尽くし審理終結が合意された81年に裁判を終わらせていれば(その時点ではもはや有罪は証拠上まったく不可能だったのであるから)まだ、この裁判が遠藤さんの人生に与える影響は少なくて済んだであろう。

 一旦起訴したら、なにがなんでも公判を維持し有罪に持ちこむ。そのためにはいかなる詭弁をも弄する。

 はたしてこのような刑事一審裁判に違法性がないといえようか。

 日本の普通の裁判官の少なくとも4分の1以上が、同様の手法と論理でアリバイを排斥し同様の有罪認定をすると、本当に言えるのだろうか。

 東京地裁はこれを「やりかねない」と言っている。

 ほんとうにそうなのかどうか。

 その回答を、国民はいま東京高裁に求めている。

[tommi]

 



庭山弁護士解説

 今回の弁論の最大の争点である「遠藤車とバスとのすれ違い地点」について、庭山英雄弁護士にコメントをいただきました。

 庭山さんは、遠藤国賠一審まで当会の会長でした。現在は、いくつもの深刻な冤罪事件の支援に取り組み、かつ、起訴後だけでなく起訴前にも弁護士をつける「公選弁護人制度」の実現にも取り組んでおいでです。

[今井亮一]

バスとのすれ違い地点の問題

専修大学前教授・弁護士 庭山英雄

 標記の争点については、一審裁判所は「遠藤さんが事故現場を通過してから定期バスがそこにさしかかるまでの間に、被害者がそこまで辿り着くことは不可能だ」と認定し、被告人の供述(看板阿賀の川タクシーの目撃)の信用性を否定した。その結果、すれ違い地点を新潟よりに勝手に動かした。このような認定も自由心証(刑事訴訟法318条)の範囲内にあると裁判所は理解したようである。

 刑事訴訟法308条は「当事者双方に証拠の証明力を争う機会を与えなければならない」と規定する。したがって裁判所は、すれ違い地点の変更に先立って被告弁護側に反証の機会を与えなければならなかった。しかしそれを与えたとの記録はない。

 昭和58年の有名な最高裁判所判例(不意打ち認定の禁止)によれば、不意打ち認定は被告人の防御権を不当に侵害するものであり、その根拠は刑事訴訟法317条、308条にあるという。さらにその背後には憲法37条2項(被告人の反対尋問権)があることは言うまでもない。

 遠藤事件における不意打ち認定は、明らかに違法・違憲であり、裁判官に付与された権限の明白な逸脱と言わなければならない。

 



次回弁論のお知らせ

次回弁論は──

2月28日(月)午後3時〜4時30分
霞ヶ関の裁判所ビル8階
東京高裁民事9部・809号法廷

──です。

 次回弁論には、お仕事の関係でここ二回続けて欠席されていた遠藤さん御自身も出席されるとの噂を聞いています。皆さん、是非傍聴におこし下さい。

 また、弁論終了後、ミーティングを行いますので、こちらもぜひどうぞ。

東京高等裁判所(裁判所合同庁舎)
東京高等裁判所(裁判所合同庁舎)

 



事務局から

●月々の雑誌連載の締め切り。交通違反マンガ(早ければ4月連載スタート)の締め切り。文庫本の原稿の締め切り。そして次々と寄せられる交通違反についての深刻なご相談への対応。もうパンクしそう・・・。いや、毎日楽しくてたまらんすっ!

[今井亮一]



●今回、初めて編集作業に参加しました。それぞれ違う都道府県に住むスタッフ全員が、インターネットを通して、連絡を取り合い、作業途中のファイルを交換しながら進めてゆくという、凄まじいものでした。遠くに離れていても、共同作業ができる、大した時代です。これなら、南極からでも遠藤国賠のお手伝いが出来ますね。

[ガヴァガイ]



●最近「ディレクTV」に加入しました。動機はSamuraiTVという格闘技のチャンネルを見たかったからです。地上波ではプロレスなんてほとんど放送されませんが、衛星放送のように多チャンネルだとこういったマイノリティの希望も満たしてくれます。送られてきた番組表を見てると全部で100以上のチャンネルがあるようです。それぞれがSamuraiTV同様、特化された内容で放送されています。ニュースのチャンネルにアニメのチャンネル、国会中継ばっかりやってたり、時代劇専門なんてのもあります。でも公判を放送するチャンネルはありません。いつか傍聴チャンネルができることを願っています。そしたら、今回の傍聴記にあるような、でたらめな裁判も減っていくのではないかと思います。

[カブ]



●今回の法廷でもまた、国側代理人のすぐ目の前に座った。

 一番手前の、どっかで見たような顔だなと思ってたら、高校の担任にそっくりだった。担任は「カバ」というあだ名だった。いうまでもなく、カバそっくりの顔をしているからだ。そう思いながら今度は真ん中の、見たらなんかヘビみたいな顔だなと思った。カバとヘビ、ふーんと思いながら何度もじっと見つめてしまった。しかし一度も目は合わなかった。

 若いきれーなおねえさんがすぐそばから熱い視線を送ってるっていうのに、なんつー無粋なオヤジどもだ。

[tommi]




●今号の編集は、管理人のカブさん、ガヴァガイさん二人の発案によるパソコン上での「電子編集」となりました。その結果、私はおろおろするばかりでほぼ全面的に二人にお願いすることになりました。試行錯誤をくり返しつつ、よりよい紙面にしていきたいと思います。

 次に、お詫びと訂正です。

 前号の弁論報告中に掲載した「中川氏はこの角を曲がってくる『真犯人』の車を見た」(6ページ)の写真は、『ドキュメント交通事件』(矢貫隆著・恒友出版,1988 年)から転載させていただきました。矢貫隆氏には快く承諾していただきましたが、出典の記載を失念してしまいました。ここに改めて明記いたします。

 また、前号の本欄にて、実妹・静江さんを事故で亡くされた木村莊一さんについてご紹介し、署名活動等へのご協力をお願いいたしましたが、連絡先ご住所にミスがありました。正しくは、

〒167-0023 杉並区上井草4-7-9

 です。

 木村さんをはじめ、多くの方々にたいへんご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありませんでした。

 さらに前回、郵便局の払込用紙を同封させていただきましたが、年会費等の記載を失念しておりました。そのため複数の方々からお問い合わせをいただきました。たいへんお手数をおかけいたしました。

 なお、会費は、一口1,000円(払込月より一年)となっております。この金額は、できるだけ負担の少ない額にすることで、より多くの方々に気軽に参加していただけるように、との思いから設定したものです。引き続き、みなさまのご入会とご支援をお願いいたします。

 以上、改めてお詫び申しあげるとともに、今後はこれらのようなミスのないよう、充分に注意いたします。

[寅次郎]

 


発行: 「遠藤国家賠償訴訟を支援する会」

代表 : 今井亮一 (交通ジャーナリスト)
広報 : 寅次郎  (勤人&大学院生)

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